理論と現場

歯科では実際の手技が治療の予後に関係してくることが多い気がします。

虫歯の治療を例にとると、先ず麻酔をどの時点で打つか、すなわち最初から打つのか患者さんが痛みを訴えた時点で打つのかという問題があります。わたしは後者のやり方を取っていますが、短時間で痛みなく治療する効率を考えれば最初から打った方がよいでしょう。また、患者さんが希望すれば始めから打つこともあります。

その次にくるのは、具体的にどういう方法を使うのか、場所はどこに打つのか、どのくらいの量を打つのかという問題があります。さらに軟化象牙質(虫歯菌に侵された象牙質)を除去するのに、どのような方法で、どのように除去するのか、次に除去後どのような方法で修復治療するのかという問題があります。

患者さん側から見ればどこの歯医者も同じようなことをやっているのだろうと思われがちですが実際はかなり違うことも多いのです。

ところで私の左側の7番目の歯は歯科医になる前にインレーにして貰ったのですが、時々外れてきます。いまでは歯科の知識があるので理由はよく分かっています。インレー体自体が取れやすい形なのです。

そもそもこうしたインレーや冠が脱落してくるのは、それなりの理由があって、
sakaki_icon_11、それ自体が取れやすい形をしている。
sakaki_icon_12、縁の部分から虫歯になっている。
sakaki_icon_13、はぎしりをしている。
以上の3点であることがほとんどです。

わたしの場合はインレーの深さが浅いことと、頬側に延びた部分がまったく維持に役に立っていないことが原因です。
どうしてこうなったかというと、もともとの私の歯が噛む面と頬側面とのなす角度が120度くらいに鈍角になっているせいです。歯の形のとうりに削って作ればこうなります。取れにくくしようすれば、もう少しこの部分を歯肉縁まで延長し、噛む面と90度に近いところまで削り、噛む面ももう少し深く削れば維持がでてくるでしょう。あるいはいっそ隣接面を削ってかなり形を変えてしまうことも考えられます。

しかしそうすると今度は冷たいものがしみるようになるかも知れません。また私のこの部分は麻酔が効き辛く現に、そのときは伝達麻酔を打たれ5時間くらい痺れていました。
またこのために、冷たいものがしみるにようなって、神経を取るようにはしたくありません。
レントゲンで見ると歯根が細くかなり彎曲しているからです。したがっていまより少し形を修正して、接着力の強いセメントで合着するほうが無難だと自分では判断しています。そうすれば麻酔しなくてよいかもしれませんし、神経を取らなくてもよいでしょう。他にも、プラスチックで充填する方法もあるのですが、はぎしりや食いしばりのためにすり減るリスクを考えるとやはりインレー形態がよいのではと思います。

以上たかだかインレー一つのことですが、他の治療でも同様に、歯科治療の現場は、歯科医一人ひとりの診断と手技にかかってくるのです。