雑談の効用

日本列島を興奮させたラグビーワールドカップも終わり、秋も深まって来ました。
また、遅まきながら10月の台風や大雨で被害を被られた方々にはお見舞い申し上げます。

私が住んでいるところも近くの道路が一部冠水したりしたので、
翌朝住人の方たちと泥水を排水溝に流し込んだりしました。
100年に一度の大雨だとかいうことですが、地球温暖化に伴い、またこういうことが
起きるのではないかと思います。

さて、学生時代の授業で、講義の内容は忘れてしまっても
その時先生が話した雑談は不思議とよく覚えているものです。
以前通院されていた患者さんで、虫歯などの治療をやっている時に
歯肉粘膜が赤くなっているところがあり、いつまでもその状態なので
気になって、大学病院に行ってもらうことにしました。

本人は「先生、口内炎じゃあないの?」と仰るのですが、
典型的な口内炎であれば、歯科医が見るとすぐ分かります。
おまけに何もしないでも1週間かそこらで治ってしまいます。
しかしその方の場合すでに1か月近く経っているので、
念のために歯肉がんの疑いで大学の口腔外科に行ってもらうことにしました。

結果的には、口内炎でも、がんでもなかったのですが、
私がこの時念頭にあったのは、学生時代の口腔外科の教授の雑談でした。

ある時その教授のもとに紹介された患者さんが実は口腔粘膜がんだったのですが、
紹介前に開業医の方ですでに切られていて、そのために転移してしまっていたということでした。
教授はその開業医を呼び出して厳しく叱責したということで、
君たちはこういうことを絶対にやってはいけないというお話でした。

口腔内にできるがんは稀少がんで、実は臨床をやっていてもめったに出会うことはありません。
ただ本当の初期のがんは少し赤くなっていたり、逆に白くなっていたりして
気付くことが難しいものです。
こういうケースに出会ったら私は先ほどの教授の雑談が頭をよぎり、
とにかく触らずに大学の口腔外科に紹介することにしています。

もっとも私が紹介した患者さんは紹介後私のところに来られて
「やれやれ本当に先生も心配性なんだから」と苦笑いされましたが・・・・・。